アリスの国と神獣が「協演」
我孫子の「散歩市」にお目見え
――「不思議な国のアリス」のお茶会、大きな半獣半人が我孫子の旧家や大型スーパーに現れた。我孫子市の公園や街角、スーパーなどで6月7日まで開かれた「我孫子アートな散歩市」の作品だ。

■写真上:「不思議な国のアリス」のお茶会登場者のアリス(左)、「いかれ帽子屋」(右)を説明するやちぐちひろゆきさん/旧村川別荘母屋
展示する空間全体をアートとするインスタレーション、「薬師十二神将」ならぬ干支の「十二神獣」という独創的な作風のやちぐちひろゆき(本名・谷内口博幸)さん=松戸市在住=の作品。
「散歩市」に初めての出品にあたって、やちぐちさんは、会場の旧家・旧村川別荘母屋を下見した。竹林に囲まれ、爽やかな風が吹き抜ける縁側の和室でお茶を飲んだらうまいだろう、と想像した。
そこで想い浮かんだのは児童小説「不思議の国のアリス」で描かれた終わらないお茶会の場面。登場するアリス、いかれ帽子屋などを制作して展示した。
隣の和室にはお茶から上がる湯気、茶会の客人が亭主にしたであろう土産話をイメージ、抽象化した大小複数の造形物を配した。両和室へ通じる玄関で「十二神獣」のうさぎ、ねずみが出迎える。

■写真上:お茶の湯気、客人の土産話をイメージした作品/旧村川別荘母屋

■写真上:和室の隅でさりげなく展示された作品/旧村川別荘母屋
大正末期から昭和初期にかけての純和室と、そこに陣取るカップを手にしたアリス、天井にも届こうかという神獣のミスマッチがファンタジーを醸し出した。

■写真上:左から干支の神獣「子」(ね)と「卯」(う)/旧村川別荘母屋
「散歩市」の会場はJR我孫子駅南口からの公共施設やスーパー、公園などに広がる。我孫子インフォメーションセンター「アビシルベ」やアビイクオーレ(イトーヨーカドー我孫子南口店)、手賀沼湖畔の水の館などにやちぐちさんの神獣が展示された。
やちぐちさんは、北海道函館市出身。小学生の頃、風景画で金賞を取り、中学、高校の美術の時間が好きだった。一時上京して美術系大学を目指した時期もあったが、家業の自動車整備工場で働いた。
美術とは縁遠くなったものの、毎年の年賀状に描く干支の絵が「アートこころ」をつなぎとめた。30歳の頃、再上京してガス設備の仕事をしながら、造形インスタレーションの知人に頼まれ、個展を手伝うようになった。

■写真左:左から神獣「巳」(み)、「申」(さる)、「辰」(たつ)/カスミフードスクエア我孫子寿店2階
■写真右:左から神獣「丑」(うし)、「午」(うま)/アビシルベ
ある春の夜、「我ら干支に形を与えよ」という夢を見たという。夢に出てきた獣の姿を追い求め、駆り立てられるように制作を始めた。
材料は柔らかく、しなやかでクッション材や断熱材の建材などに使われる発泡ポリエチレン。美術系の材料は使わない。後から着色もしない。建材そのものの色を使う。

■写真左:4㍍ある神獣「亥」(い)/水の館
■写真右:「亥」が背負う我孫子市の鳥・オオバン

■写真上:2体並んだ神獣「寅」(とら)(左)と「戌」(いぬ)/アビイクオーレ2階
設計図はない。獣の姿を想い描き、生きもののように「暴れる」(自由にならない)建材を抑えつけながら足から組み上げるという。
「手の内から奇妙な獣がどんどん姿を現し、まるで神のように世界を見渡す。観ての通り破天荒なありさま。観た人は『えー、これはなに?』って驚くが、未来、次世代ではわかる人が出てくるかもしれない」
「散歩市」の事務局を務める陶芸家関谷俊江さんは、毎回、新しい作家、新しい作品を集めるようにしている。見学者を案内して旧村川別荘母屋にやってきた関谷さんは「今までになかった作風、作品ですよね」と話した。
(文・写真 佐々木和彦)

