朗読劇と伝統芸能
2月6日「樹々の会」公演
――「アカイ、アイアイガサ」「アオイ、アイアイガサ」……。1月9日午後、我孫子市の国道6号に近い我孫子北近隣センター会議室から大きな声が聞こえてきた。2月6日に朗読劇を控え、昨年暮れから続く「樹々の会」(萩野谷肇子代表)の稽古だ。

■写真上:稽古に励む朗読グループ「樹々の会」の会員(我孫子北近隣センター並木本館)
「アイアイガサ」は音読に入る前の発声練習だという。「椅子によりかからないで」「大きな声でないと皆に届かないよ」。誰からとなく声が飛ぶ。皆、真剣な表情だ。
2017(平成29)年に結成された「樹々の会」は翌年から朗読会を始めた。メンバーは70代の男女5人。コロナ禍などで中止したこともあったが、今年で6回目を迎える。

■写真左から:妹・タキ役の相馬みつ子さん / 妻・松子役の萩野谷肇子さん / 語り手の秋田桂子さん / 店子役の工藤憲二さん / 妾・駒代役の工藤葉子さん
昨年、橋で出会った蒔絵師、飲み屋の酌取りの男女を描いた藤沢周平の「川霧」など、これまでは藤沢作品がテーマだった。今回は「恍惚の人」「複合汚染」などで社会派ともされる有吉佐和子原作の「三婆」に挑戦する。
金持ちの会社社長が急死し、残された家屋敷に妻、妾、夫の妹(義妹)の3人が同居する物語。妾と義妹を追い出したい妻、料理屋を出すまで居候を決め込む妾、遺産相続を狙う義妹……。
思惑が絡み、いがみ合う奇妙な三角関係だが、同居するうちに微妙な変化が生じ、身寄りのない3人の「老い」も浮かんでくる。

■写真上:朗読会の案内チラシ
朗読会プログラム
【三番叟】
日本の伝統芸能~若月仙之助(日本舞踊「若月流」二代目家元)
【歌舞伎役者の隈取り】
若月仙之助の実演
【朗読劇】
「三婆」~我孫子版~有吉佐和子原作 秋田桂子脚色
配役:妻・松子 萩野谷肇子
妾・駒代 工藤 葉子
妹・タキ 相馬みつ子
店子の男 工藤 憲二
語り手 秋田 桂子
伴奏 上野 高史
昭和30年代後半の東京が舞台だが、人形劇団「くさぶえ」でも活動し、今回、語り手を務める秋田桂子さんが現代の我孫子に設定する脚色をした。
我孫子の地名やJR常磐線、さらに着物をリメークする「SDGs」(エス・ディー・ジーズ=持続可能な開発目標)なんて台詞も飛び出す。
当日は午後2時から我孫子市在住の日本舞踊若月流家元・若月仙之助さんが、紋付き袴姿で祝いと願いの素踊り「三番叟」(さんばんそう)を披露したり、歌舞伎役者独特の化粧法「隈取り」を実演したりの後、休憩を挟んで「三婆」となる。
男女5人の中で唯一男性の工藤憲二さんは「男役がいないので」と誘われ、妻の葉子さんとともに参加した。「与えられた役をこなせるようになると嬉しいし、楽しい」と話した。
伴奏のギタリスト上野高史さんは、いろんな音楽シーンを提供するアダチ音研(本社・横浜)の「GUITAR(ギター)の東大」代表。「朗読劇の伴奏は初めてだが、面白そうで楽しみだ」と稽古にアコーステックギターを持参した。

■写真上:ギタリスト上野高史さん
台詞に合わせて「人生いろいろ」(島倉千代子)、「川の流れのように」(美空ひばり)、「恋のフーガ」(ザ・ピーナッツ)など昭和の名曲を弾く。
萩野谷代表は「本を読む時に文字を目で追うより、声を出して読んだほうが、本の内容が心に入り、作者とつながるような気がする」と朗読の価値を実感。「演劇のように動きがない、朗読だけの劇を観てほしい」という。

■写真上:若月仙之助さん演じる歌舞伎舞踊「鏡獅子」

■写真上:歌舞伎役者の化粧「隈取り」途中の若月さん/歌舞伎舞踊出張イベント・亀鶴屋提供
有吉の「三婆」は1961(昭和36)年に発表され、1974(同49)年の映画化で妻・三益愛子、妾・小暮実千代、義妹・田中絹代らが演じたほか、舞台、TVドラマも制作され、毎回のように名高い俳優が登場している。
期せずして東京・新橋演舞場で「樹々の会」朗読劇の2月6日を挟む同1日~9日、二月新派喜劇公演「三婆」があり、水谷八重子、波乃久里子、渡辺えりが出演する。
(文・写真 佐々木和彦)